top of page

『「好き」という感情が、体を整える』

抱き合う親子

「好き」って思うとき、体の中では何が起きている?



「好き」という気持ちには、不思議な力があります。

誰かを、なにかを、ただ“いいな”と思うだけで、心がほどけ、体のこわばりすら和らいでいくことがある。


たとえば──

憂うつだった朝でも、好きな人の声を思い出すと、少しだけ呼吸が深くなったり。

疲れた夜でも、大好きな音楽に包まれると、体の芯がふっとゆるむ瞬間があったり。


それは決して“気のせい”ではありません。

「好き」という感情は、思考よりも速く、直接的に体へ届く“感覚”のようなもの。

そこには、神経系・呼吸・ホルモン・筋肉・免疫など、あらゆる生理的反応が複雑に関係しています。


不安やストレスは、目に見えなくても体に残る。

それと同じように、「好き」もまた、目に見えない形で体に“整える作用”を与えてくれているのです。


このコラムでは、そんな「好き」という気持ちが体に与える静かな変化について、ひとつずつ丁寧に紐解いていきます。

呼吸が整い、筋肉がゆるみ、ホルモンが循環し、回復力が高まる──

“好き”は、わたしたちが思っている以上に、深いところで体とつながっている感情かもしれません。


「何かを好きでいること」

「誰かを好きと感じられること」

そのささやかな感情の中に、体と心を同時に癒すヒントが眠っていますよ。



目次






第1章|「好き」は、呼吸を変える



── それは、心だけでなく、体のリズムまでゆるめてくれる。




■ 息が浅い日は、心も疲れやすい



何もしていないのに、なんとなく苦しい。

気づくと呼吸が浅くなっていて、胸のあたりが詰まっているような感覚がある。

そんな日が、誰にでもあるのではないでしょうか。


呼吸は、生きるために必要な“無意識の動作”です。

けれど、感情の影響を受けやすい繊細な働きでもあります。

緊張、不安、焦り、恐れ──

そうしたネガティブな感情が強くなると、呼吸は自然と浅く、速くなってしまうのです。


「呼吸が浅いから不安なのか、不安だから呼吸が浅いのか」

──そのどちらも正解です。

呼吸と感情は、双方向に影響し合っています。

だからこそ、呼吸を整えることは、心を整える第一歩になる。

そして、「好き」という気持ちには、その呼吸を自然に深める力があるのです。




■ 「好き」に触れるとき、呼吸は変わっている



思い出してみてください。

あなたがなにかを「好き」と思うとき、たとえば──


  • 好きな音楽に包まれているとき

  • 美しい景色を目の前にしたとき

  • 好きな人と静かに話しているとき

  • 好きな本を読んで、心がじんわり温まっているとき



そんな時間には、いつの間にか呼吸が深くなっていることに気づきませんか?

意識せずとも、自然に体が「ゆるむ」方向へと向かっていく。

それは、好きという感情が**“安心”と“安心感をともなう集中”を同時に連れてくるから**です。


「好き」は、交感神経と副交感神経のバランスを取る、とても優れた感情なのです。




■ 緊張の呼吸と、好きなときの呼吸の違い



たとえば、何かに追われているときや、プレッシャーを感じているとき。

そのときの呼吸は、短く、浅く、胸の上部でだけ起こっています。


対して、好きなものに囲まれているとき、

あるいは「好きなことに没頭しているとき」の呼吸は──

静かで、深く、腹部まで空気が届いていることが多い。


ここで重要なのは、「好きだからリラックスできる」のではなく、

「好きな状態では、呼吸が深まる」→「結果的にリラックスが起こる」という流れがあることです。


つまり、「好き」は呼吸の“条件反射的な調律装置”なのです。

無理に整えようとしなくても、ただ“好き”に触れるだけで、

呼吸は勝手に、自分にとってちょうどいいリズムに戻っていく。




■ 呼吸が整うと、体の中で起きること



呼吸が深まると、体の中ではいくつもの良い変化が起こり始めます。


  • 副交感神経が優位になり、リラックス状態に入る

  • 心拍数が安定し、血流が改善する

  • 筋肉の緊張がゆるみ、肩や首が軽くなる

  • 消化が促進され、胃腸の働きも整ってくる

  • 脳への酸素供給が増え、頭の中がクリアになる



つまり、呼吸が整うことは、体のあらゆる働きを「今、この瞬間」に戻してくれること。

そして「好き」という感情は、それを強制せず、やさしく導いてくれる存在なのです。




■ 「好き」を感じたとき、人は“息を吐ける”



ストレスの多い日常のなかで、多くの人が「息を吸うこと」ばかりに意識が向いています。

「もっと頑張らなきゃ」「ちゃんとやらなきゃ」と、気づかないうちに胸を張り続け、緊張を積み重ねている。


けれど本当に大事なのは、「息を吐ける自分でいること」。

吐く息が深ければ、吸う息も自然と入ってくる。

それはまるで、“心に空白をつくる”ような作業です。


そして、「好き」と感じたとき、人は自然と息を吐けるのです。

「はぁ〜…」と、ゆっくり息を吐いたときの安堵感。

それは、“好き”という感情が、内側の緊張をゆるめた証拠です。




■ 呼吸の“戻り先”としての「好き」



心がざわついたとき、

不安で胸がつまったとき、

集中力が切れてイライラしたとき。


そんなときに「呼吸を整えよう」とするのは、たしかに効果的です。

けれど、「整えよう」と力が入った瞬間、逆にうまくいかなくなることも多い。


そんなときこそ、「好きなもの」に触れること。

たとえば──


  • お気に入りの香りを嗅ぐ

  • 好きな服の肌触りに意識を向ける

  • 好きな本を1ページだけ読む

  • 大切な人とのメッセージを見返す



それだけで、呼吸は自然と“戻ってくる”。

「好き」は、**体にとっての“帰り道”**でもあるのです。




■ 好きがある人は、呼吸のリズムを知っている



好きなものがある人は、呼吸が整いやすい。

それは、心にとっても、体にとっても、非常に大きな支えになります。


  • 呼吸が深まると、不安は遠のき、集中力が増す

  • 呼吸が整うと、睡眠の質も上がる

  • 呼吸が安定すれば、思考もポジティブに変わっていく



つまり、「好き」があることは、呼吸のリズムを取り戻す方法を、自分の中に持っているということ


それは、ちょっとやそっとの不調では折れない強さでもあり、

日々の中で立て直す力を静かに支えてくれる“体のスイッチ”でもあるのです。


好き」という気持ちに触れると、呼吸は深くなる。

それは、頭で理解する前に、体が先に感じ取っている証です。


深く息を吸って、静かに吐いて。

そのリズムのなかで、「ああ、これが自分の好きなものだったな」と思い出せる瞬間。


不安な日も、緊張した場面も、

自分の“呼吸を戻す場所”として「好きなもの」があること。

それは、想像以上に大きな安心となって、私たちを支えてくれているのかもしれません。





第2章|「好き」がホルモンに作用するしくみ



── 感情のひとしずくが、体の奥深くに波紋を広げていく。




■ 「好き」という感情が、体内で静かに動かすもの



「好き」と思う瞬間、心だけでなく、体の中でも変化が起こっています。

それは気のせいではなく、ホルモンという名の“化学の言語”を通じて、全身に伝わっているのです。


たとえば、誰かを「いいな」と思ったとき。

好きなものを見つけて胸が高鳴ったとき。

大好きな空間に身を置いて安心したとき。


そのたびに、脳と内臓は静かに動き出します。

呼吸や心拍が整い、筋肉の緊張がほどけ、体内のバランスが回復していく。

感情がホルモンに伝わり、ホルモンが体全体に影響を与えている──

この流れは、わたしたちが思う以上に力強く、そしてやさしい仕組みなのです。




■ 「幸せホルモン」たちは、“好き”から生まれる



いわゆる「幸せホルモン」と呼ばれるものの多くは、実は「好き」という気持ちと強く結びついています。

ここでは代表的な3つを紹介します。



① セロトニン(安心感・安定のホルモン)



  • 日光・リズム運動・咀嚼・スキンシップ・「好きなものに触れる時間」で分泌が促進される

  • 腸で多く作られ、脳内でも気分を安定させる役割を持つ

  • “心を落ち着ける”ような穏やかな「好き」との関係が深い




② ドーパミン(やる気・快感のホルモン)



  • 何かを達成したとき、新しい刺激を得たとき、「好きなことに没頭したとき」に分泌される

  • 集中力、学習意欲、好奇心を高め、行動力に火をつける

  • “ワクワクする好き”との結びつきが強い




③ オキシトシン(愛着・絆のホルモン)



  • 人や動物とのふれあい、感情の共鳴、安心できるつながりの中で生まれる

  • ストレスを下げ、心拍を安定させ、信頼や共感を深める作用がある

  • “人への好き”“ふんわりと包むような好き”と相性がいい



これらのホルモンが複雑に作用し合い、好きという感情が“心身の安定”に変わっていくプロセスを支えています。




■ 「好き」はストレスホルモンにブレーキをかける



一方で、緊張や不安を感じたときに分泌されるのが、ストレスホルモンの代表格・コルチゾール

本来は危険を察知して体を守る役割を担っていますが、慢性的に高い状態が続くと、

・免疫力の低下

・睡眠の質の悪化

・食欲の乱れ

・慢性的な疲労感

など、さまざまな不調を引き起こします。


ここで注目したいのが、「好き」に触れているときは、コルチゾールの分泌が自然に抑えられるという事実です。


これはまるで、「好き」という感情が、体にとっての“消火器”のように働いているようなもの。

ストレスで燃え上がる神経に、静かに水を注いでくれる。

だからこそ、好きなことに触れている時間は、リラックスの質も深く、心の安全地帯として機能するのです。




■ 「好きを感じる」だけで体に効く?──それ、科学的にも本当です



意外かもしれませんが、「実際に触れる」「行動する」までいかなくても、“好き”を思い浮かべるだけでも、ホルモン分泌に変化は起こります。


たとえば:


  • 推しの写真を眺めているだけで、オキシトシンが上がる

  • 好きな曲を思い出すだけで、ドーパミンが分泌される

  • 「今夜はあれを食べよう」と考えるだけでセロトニンが活性化する



これは、**脳が“想像しただけで反応する”**という特性によるもの。

つまり、「好きなものが“ある”という事実」そのものが、体を整えてくれる材料になるのです。




■ 好きがホルモンを通して整える“体の領域”



ホルモンの影響は、心にとどまらず、体全体に広がっていきます。

ここでは、「好き」がもたらす体への波及効果を、いくつかご紹介します。



1. 血流の改善



ドーパミンやオキシトシンが増えると、血管が拡張しやすくなり、手足まで温まりやすくなります。



2. 胃腸の調整



セロトニンは腸内環境に密接に関わっており、「好きなものに包まれているとき」に腸がスムーズに働きやすくなります。



3. 睡眠の質が上がる



安心感があると、メラトニン(睡眠ホルモン)の前段階となるセロトニンが十分に分泌され、深い眠りにつながります。



4. 免疫力が保たれる



オキシトシンやセロトニンは、白血球の働きにも影響し、自然免疫の維持に役立つと考えられています。




■ 「ホルモン=体調」への影響は、日常の“好き”で十分



こうして見ると、「好き」という感情は、わたしたちの体の状態にとってかなりの“鍵”であることが分かります。


でも、大げさなことでなくて大丈夫。

日々の中にある“小さな好き”だけで、体にはじゅうぶん影響が出るのです。


  • 朝、お気に入りのカップでお茶を飲む

  • 布団に入る前、好きな香りのミストをひと吹き

  • 鞄の中に、小さな“好き”がある持ち物を忍ばせておく

  • 通勤途中に「好きな色」をひとつ見つけてみる



そんな些細なことでも、感情は揺れ、ホルモンは反応します。

その繰り返しが、やがて体調や気分の土台を整えていくのです。



「好き」という気持ちは、見えないけれど確かな力を持っています。

それは、体の奥深く──ホルモンの流れにまで波紋を広げ、わたしたちの呼吸・血流・消化・免疫にまで影響を与えている。


不安やストレスが溜まっているとき、

思うように気分が上がらないとき、

まずは「自分にとっての“好き”」を思い出してみてください。


それだけで、体の中では静かな回復が始まっている。

「好き」は、心と体の両方に届く、もっともやさしい薬なのかもしれません。




第3章|“好き”は姿勢と筋肉を変える



── 気づかぬうちに、体の奥にたまっている緊張をほどく力。




■ 心の状態は、姿勢に出る



元気がないとき、気づけば猫背になっている。

不安なとき、胸をすぼめて浅い呼吸になっている。

落ち込んだとき、肩や首がガチガチに固まっている。


こうした経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。


心の状態は、体に出ます。

それも、わかりやすく──たとえば“姿勢”として。


私たちは意識しないまま、感情に合わせて体を丸めたり、硬くしたり、動きを小さくしたりしています。

これは、自律神経の働きや脳の反応が筋肉とつながっているため、自然と起こることです。


逆に言えば、心の状態が整えば、姿勢も整ってくる

その鍵になるのが、「好き」という感情なのです。




■ 「好きなとき」の姿勢は、前を向いている



何かを「好き」と感じているとき、私たちの姿勢はどうなっているでしょうか。


  • 胸が自然にひらく

  • 呼吸が深くなる

  • 肩の力が抜ける

  • 目線が上がる

  • 体の動きがやわらかくなる



これは、“好き”という気持ちが副交感神経を活性化させ、緊張をゆるめるだけでなく、「前向きに向かう動作」を引き出しているからです。


「好きなものに近づこうとする」

「好きな人をもっと見ようとする」

その行動自体が、自然と姿勢を上向きに整えているのです。




■ 姿勢は、感情の出入り口



人の姿勢と気分は、密接につながっています。

面白い実験があります。ある大学の研究で、次のような結果が報告されたそうです。


被験者に「ネガティブな感情」を思い出してもらいながら、背筋を伸ばした姿勢を保たせたところ、
同じ感情を“猫背姿勢”で体験したときよりも、落ち込み度が明らかに低かった。

これは、姿勢が脳に影響を与え、感情の感じ方までも変化させるということを示しています。

つまり、**「気分が落ちているから姿勢が悪くなる」のではなく、「姿勢が悪いから気分も落ちやすくなる」**という逆もまた真なり。


だからこそ、「好きなものに触れる=姿勢が自然と整う」ということは、

気分を持ち直すうえでも、非常に理にかなっているのです。




■ “好き”は筋肉の緊張をゆるめる



好きなものに囲まれているとき、好きな空間にいるとき、

気づけば体のどこかが、ふっとゆるんでいる──そんな感覚を覚えたことはありませんか?


それは、筋肉が実際にゆるんでいるのです。


緊張、不安、プレッシャーなどは、筋肉を“防御反応モード”にしてしまいます。

肩が上がる、首が固まる、腰に力が入る、奥歯を噛みしめる……。

これらはすべて、外からの刺激に対して体が無意識に「構えている」状態。


ところが、「好き」という感情に触れているときには、脳が安心を感じ、筋肉に**“力を抜いていいよ”という指令**を送ります。


とくにゆるみやすいのが:


  • 首・肩まわり(ストレスが出やすい場所)

  • 背中全体(姿勢を保とうとして頑張りがちな場所)

  • お腹まわり(感情の揺れに反応しやすい場所)



“好き”に包まれていると、これらの部位が少しずつゆるみ、「なんだか楽になった」感覚が生まれます。




■ 「触れる」「聴く」ことでゆるむ筋肉



筋肉は、感情によっても緊張し、やわらぐことが分かっています。

特に「触れる」ことと「聴く」ことは、筋肉のゆるみに直結しやすい刺激です。


たとえば:


  • 好きな素材のブランケットに触れる

  • 肌ざわりの良い服を着る

  • 好きな音楽を聴く

  • 安心できる声を聴く



これらの感覚刺激は、筋肉を介して副交感神経を優位にし、体全体をゆるめてくれます。

つまり、“好き”を「感じる」だけでなく「体験する」ことで、体の緊張はより深くほどけていくのです。




■ 体のこわばりは、心のこわばりでもある



筋肉の緊張は、ただの疲労ではありません。

「心のこわばり」が、体に現れていることも多いのです。


たとえば──


  • 人間関係のストレスが、首や背中の緊張として現れる

  • 言いたいことが言えない状態が、喉や肩のこわばりになる

  • 不安や焦りが、胃まわりや腰の張りとして残る



そんなとき、“好き”という感情は、こわばった心を無理なくゆるめるためのきっかけになります。

筋肉は、心をゆるめるとゆるむ。

そして、筋肉がゆるむと、心もまたつられてやわらかくなる。


“好き”は、その循環を起こすスイッチでもあるのです。




■ 好きなことをしていると、体は「元に戻ろう」とする



とくに印象的なのは、好きなことをしている時間にだけ起こる、体の自己調整反応です。


  • 何もしていないのに、深くあくびが出る

  • ふと背伸びしたくなる

  • 頭がぼーっとして、呼吸が自然と深くなる

  • 体が「抜ける」ような感覚がある



これは、心が安心して、筋肉が「休んでいい」と認識した証です。

“好き”なものに触れているとき、体は「元に戻ろう」としている。

それは決して特別なリラックス法を使わなくても、“好き”の力だけで起こる小さな回復なのです。




■ 姿勢と筋肉の変化に気づける人は、「整いやすい人」



自分の姿勢の変化に敏感な人。

筋肉のこわばりに気づける人。

これらは、心が乱れたときの“初期サイン”をキャッチしやすい人でもあります。


そして、その小さな違和感に気づいたとき、

「いま、自分には“好き”が足りていないかも」と思えること。

その発想こそが、整え直しの第一歩です。


“好き”は、日々の中に仕込んでおける体のメッセージ。

体が「整ってきたな」と感じる瞬間には、きっと「何かを好きでいられた時間」が背景にあるはずです。


“好き”という感情は、思っているよりもずっと静かに、体の奥に届いています。

姿勢を整え、筋肉をゆるめ、呼吸を深くし、

そして何より、自分自身を「もう一度、大丈夫」と信じられるように整えてくれる。


不安でこわばったとき、

緊張で体が固まってしまったとき、

うまく力を抜けない夜。


そんなときこそ、自分にとっての“好き”に触れてみてください。

その小さな選択が、体をゆるめ、心を動かし、あなた自身をやさしく立て直してくれるはずです。




第4章|「好き」が生み出す行動力と免疫力



── 心がときめくことが、体を動かし、守ってくれる。




■ やらなきゃいけないことと、やりたいことの違い



「がんばらなきゃ」と思うときと、

「やってみたい」と思うときでは、体の動き方がまるで違います。


“やらなきゃ”という動機は、緊張と義務感から始まり、どこかで力を絞り出す感覚がある。

けれど“やりたい”という気持ちは、体の奥から自然に湧き上がり、エネルギーを外に向かわせるような力がある。


そしてこの“やりたい”という感情の中心には、「好き」という気持ちがあるのです。

好きだからこそやりたい。

好きだから自然に動ける。

好きだから、気づいたら行動している。


この「好きによって動き出す」という力は、行動力を支えるだけでなく、私たちの体の免疫系にまで深く関わっています。




■ 好きなことをしているとき、人は疲れにくい



不思議なことに、好きなことに没頭しているとき、

人はあまり疲れを感じません。


  • 好きな本を読んでいたら、何時間も経っていた

  • 好きな人と話していたら、あっという間に夜になっていた

  • 好きな制作活動をしていたら、空腹さえ忘れていた



こうした体験には、「好き」という感情が交感神経と副交感神経のバランスをうまく保ち、過剰なストレス反応を抑えてくれているという背景があります。


脳は、“ストレスによる疲労”と“快楽による集中”を区別します。

だからこそ、「やらされている疲れ」と「好きでやっている疲れ」は、体感としてまったく異なるのです。




■ ドーパミンが行動のエンジンになる



「好き」という感情に触れたとき、脳内ではドーパミンという神経伝達物質が分泌されます。

ドーパミンは「報酬系ホルモン」とも呼ばれ、やる気・集中力・モチベーションを高める働きがあります。


  • 新しいことに挑戦したくなる

  • 自発的に行動したくなる

  • 少々の困難も乗り越えてみたくなる



これはすべて、ドーパミンが脳の「行動中枢」にスイッチを入れてくれているから。


つまり、**“好き”は行動を生み出すホルモンを刺激する“感情の起爆剤”**とも言えるのです。




■ 好きがある人は、日常の中で「回復」している



日々の生活の中で、エネルギーを奪うものはたくさんあります。

仕事、ニュース、人間関係、情報の洪水──

けれど、「好き」という感情に触れる時間がある人は、それだけで自然にエネルギーを“回復”させているのです。


  • たった10分、好きな音楽を聴く

  • 朝のコーヒーを「楽しみ」として味わう

  • 帰り道に好きな風景を見る

  • 布団に入る前に、好きな言葉をひとつ思い出す



こうした“微細な好き”の積み重ねが、エネルギーをじわじわと補充していきます。

そしてこの“回復の習慣”こそが、ストレス耐性や免疫力の強化にもつながっていくのです。




■ 「好き」は、免疫の防波堤にもなる



免疫というと、ウイルスや細菌に対抗する体の防御機能ですが、

実はその働きは、精神状態や感情によって大きく左右されることがわかっています。


ストレスが続くと、コルチゾールというホルモンが過剰に分泌され、

・白血球の働きが鈍る

・炎症が長引く

・自律神経のバランスが乱れる

といった不調が起こります。


その一方で、「好きなことをしている時間」「好きな人と過ごす時間」には、

副交感神経が優位になり、免疫細胞の働きが活性化するという研究結果も出ているそうです。


つまり、“好き”は心を癒すだけでなく、体の免疫機能にもポジティブな影響を与えているのです。




■ オキシトシンが免疫をやさしく整える



前章でも登場した「オキシトシン」は、好きな人・もの・環境に触れることで分泌される“愛着ホルモン”。


このホルモンは、ストレスを和らげるだけでなく、

・炎症を抑える

・心拍数を安定させる

・自然免疫の働きをサポートする

といった、非常にやさしく持続的な免疫調整効果を持っています。


特に、慢性的な疲労感・不眠・胃腸不良など、「心因性の体調不良」に悩まされている人にとっては、

“好き”によるオキシトシンの活性化が、体調を立て直すカギになることもあります。




■ 「好きなことをすると元気になる」は迷信じゃない



「好きなことをしていたら、風邪をひかなくなった」

「好きなことに集中していたら、肩こりや不調が減った」

──そんな話を聞いたことはありませんか?


これらは決して気のせいではありません。

好きなことがある人は、ホルモンバランスが安定しやすく、神経・血流・免疫が“回復モード”に入りやすいのです。


逆に、「好き」が枯渇しているとき、人は疲れやすく、体調も崩れやすくなります。

やる気が出ない、眠りが浅い、食欲が不安定──

これらは、体が「好きのエネルギー」を求めているサインかもしれません。




■ 「好きなものに反応できる体」は、強くてやさしい



好きなものに出会ったとき、

「わあ、これ好き」と反応できる自分。

その感覚を持っていること自体が、実はとても健やかな状態なのです。


  • 好きを感じる感性

  • それを受け取る余裕

  • 体が“ときめき”に反応する柔らかさ



これらはすべて、心と体が「余裕のある状態」にある証拠です。


好きなものに反応できる自分を育てることは、

外の刺激に負けない強さと、内側から立ち上がるやさしさを、同時に育てることでもあります。


「好き」という感情は、心を軽くし、体を動かし、免疫を支える。

それは、ただの“気分”や“趣味”という枠を越えた、命のリズムを整える働きそのものです。


好きなものがある人は、回復力がある。

好きなことに触れている人は、疲れにくく、病みにくい。


「行動力」も、「免疫力」も、「生きる力」も──

じつはすべて、静かな“好き”の積み重ねから生まれているのかもしれません。



第5章|「好き」が神経系を再起動させる



── 心と体をつなぐ配線が、そっとつながり直すとき。




■ 「なんか疲れた」の正体は、神経のくたびれ



日常の中でふと感じる、「なんかだるい」「何もしたくない」「言葉にできない疲れ」。

こうした状態の多くは、実は神経系の疲労からきているかもしれません。


特に現代人に多いのが、“交感神経の過活動”による慢性的な緊張状態。

仕事や人間関係、情報過多によって脳と神経が休まる暇がなく、

「ONのまま眠る」「ONのまま休む」ことが当たり前になっているのです。


そんなとき、必要なのは無理な気合いでも、我慢でもなく、

「神経そのものが安心できる状態に戻してあげること」

そして、そのヒントが「好き」という感情の中にあります。




■ 自律神経は、感情にすぐ反応する



自律神経には、活動モードの「交感神経」と、リラックスモードの「副交感神経」があり、

このふたつのバランスが、わたしたちの体調・感情・集中力すべてを支えています。


ここで重要なのが、自律神経は「言葉」よりも「感覚」に反応するということ。

だからこそ、「落ち着こう」「リラックスしなきゃ」と頭で考えても、なかなか整わないことがある。


逆に、「なんか好き」「心地いい」「安心する」という感情に触れたとき、

自律神経はすぐに反応し、体内のスイッチを切り替え始めてくれます。


つまり、「好き」という気持ちは、神経の配線を切り替える“合図”として働いてくれるのです。




■ “好き”に触れると、副交感神経が呼び覚まされる



副交感神経が優位になると、私たちの体は次のように変わっていきます:


  • 呼吸が深くゆっくりになる

  • 心拍数が落ち着く

  • 血管が拡張し、手足が温まる

  • 消化が促進される

  • 脳波がα波〜θ波に近づき、安心感が増す



これらの変化は、強制ではなく、“感情を通じて”起こると、より自然で持続的になる


たとえば、好きな香りをかいだとき。

好きな人の声を聞いたとき。

お気に入りの場所に足を踏み入れたとき。

体は何もしていないようで、内側では神経レベルでスイッチが切り替わっているのです。




■ 「迷走神経」は、“好き”と深くつながっている



最近注目されているのが、**「迷走神経(vagus nerve)」**と呼ばれる神経の存在です。

迷走神経は脳から心臓、肺、腸などにまで広くつながっており、**体と心の状態を統合的に調整する“感情と健康のハブ”**のような存在。


この迷走神経は、次のようなときに活性化します:


  • 心地よい触感(やさしい手ざわり)

  • 安心できる人との会話

  • 自然の風景や音に触れたとき

  • “好き”なことに没頭しているとき



つまり、「好き」という感情は、迷走神経を直接刺激し、“体全体の再起動”を促しているのです。

そしてその再起動は、ただ休むだけでは得られない「深い整い」をもたらします。




■ 神経系は、“好き”でほどけ、“好き”で立ち直る



過去のトラウマや強いストレスによって、神経系が過敏になっている人は少なくありません。

音に敏感になったり、人ごみで疲れたり、眠れなくなったり。

こうした反応は、神経の“安全センサー”が過剰に働いてしまっている状態です。


そんな繊細な神経を、無理に鎮めようとするのではなく、

「好き」という感情を通じて、そっと緩めていく。


  • 小さな“好き”に毎日触れる

  • 心地よさを“味わう時間”を持つ

  • 五感を通して、自分の神経に「ここは安全だよ」と伝える



この積み重ねが、神経系の“過緊張”をやわらげ、「自分はもう安心して大丈夫」という感覚を取り戻すカギになるのです。




■ 感情を「好き」で上書きすることで、神経の記憶も書き換わる



神経系には“記憶”があります。

かつて緊張した場面や、怖かった出来事は、体にしみついた反応パターンとして残ります。


でも、それらは「好き」という感情によって、少しずつ“上書き”することができるのです。


たとえば:


  • 以前はつらかった場所でも、「好きな人と行く」と印象が変わる

  • 昔イヤだった食べ物でも、「好きな空間で食べる」と味が変わる

  • 不安な気分のときでも、「好きな香り」でリセットできることがある



これは、“感情×体験”の組み合わせが神経の記憶を書き換えるという現象。

「好き」という感情は、過去のこわばりをほどき、神経の反応を塗り替えてくれる作用すら持っているのです。




■ 「神経が整う」と、人生の選択が変わってくる



神経系が整っている人は、衝動的に反応せず、“今の自分に合う選択”ができるようになります。


  • 無理にがんばらずに休める

  • 人の機嫌に振り回されにくくなる

  • 自分の「好き」「苦手」に気づける

  • 焦らず、タイミングを待てる



つまり、「好き」を通して神経が整っていくことで、人生そのものの選び方が変わってくるのです。


外からの刺激に反応するのではなく、“内側の心地よさ”に耳をすませる感覚

それは、「自分の神経と仲良くなる」ことから始まります。


「好き」という感情は、神経系の奥深くに届き、

自律神経のバランスを整え、

迷走神経を活性化させ、

心と体をつなぎ直す役割を果たしてくれます。


ぼんやりとした不調や、気力の低下、理由のない疲れ。

それはもしかすると、神経が静かに「助けて」と言っているサインかもしれません。


そんなときこそ、“好き”という灯りを手に、

神経の配線をそっとつなぎ直してみてください。

そこから、呼吸も、感覚も、生きる気力も──もう一度、動きはじめるかもしれません。




第6章|“好き”を見つけることは、体と仲直りすること



── 心が動く方向に、体もついていく。




■ 「何が好きか、わからない」ときの空白



「最近、何が好きなのかわからない」

「前は好きだったけど、今はピンとこない」

──そんなふうに感じるときがあります。


特に忙しさや疲労、ストレスが続いているとき、

人は自分の“好き”に鈍感になります。


それは、心だけでなく体も静かにシャットダウンしている状態かもしれません。

「好き」を感じるには、心の余白と体の余裕が必要。

好きという感情は、どこかに“遊び”や“安心”がないと芽を出してくれないのです。




■ 体に余白がないと、「好き」に反応できなくなる



体が疲れきっているとき、

自律神経が乱れているとき、

思考ばかりに意識が集中しているとき──


人は「感じる力」が一時的に低下します。

目の前に“好き”があっても気づけない。

好きのサインを見逃してしまう。


これは、脳や神経が「生存」を優先している状態とも言えます。

まずは休むこと、守ること、やるべきことに集中している。

そのため、“好き”という「楽しさの感情」までは手が届かないのです。


けれど、その状態が長く続くと、

だんだん「自分が何に反応する人間だったのか」さえ、ぼやけてしまいます。




■ 「好き」を見失ったままでは、体もととのわない



体を整えようと、睡眠や食事を意識しても、

“自分の好き”に触れられていないと、どこかで満たされなさが残ります。


  • 寝ても疲れが取れない

  • 休んでも心が軽くならない

  • 表面的に整っているのに、モヤモヤする



こうした“ととのわない感覚”の背景には、

「好き」という感情が足りていないことがあるのです。


好きという感情は、体にとっての「内側からの快復エネルギー」

外から整えるだけでは届かない部分を、好きの感情がそっと埋めてくれます。




■ 「好き」と感じることは、自分と再会すること



何かを「好き」と思う瞬間。

人は、その対象だけでなく、「好きと思っている自分自身」にも出会っています。


  • 「私は、こういう音が好きなんだ」

  • 「こういう景色に安心するんだ」

  • 「この感触に、私は心を開けるんだ」



それは、自分の中の感性や価値観、快・不快の感覚を思い出す作業。

つまり、“好き”に気づくことは、自分との関係を再びつなぎ直すことでもあるのです。




■ 体のサインに耳を澄ませて、“好き”を探す



「好きがわからない」ときは、まず頭ではなく、体に聞いてみるのが一番です。

以下のような問いを、ゆっくり投げかけてみてください。


  • 触っていて落ち着く素材は?

  • 香りをかいで「ほっ」としたものは?

  • 音楽で、心がほどけた曲は?

  • 何をしているとき、体が軽くなる?

  • どんな食べものを食べたとき、呼吸が深くなった?



これは“好き”を探すのではなく、“好きに反応している自分”を拾い集める作業

小さくても、微かでも、「あ、今ちょっと整ったかも」と思えた瞬間があれば、それはもう“好き”の芽です。




■ 「好き」が見つかると、体が反応しはじめる



“好き”がひとつ見つかると、体は静かに変わりはじめます。


  • 無理なく姿勢が伸びる

  • 呼吸が深くなる

  • 食欲が自然に湧く

  • 夜の眠りが穏やかになる

  • 表情がゆるむ

  • 思考のトーンがやさしくなる



それは、「好き」が感情だけでなく神経・内臓・筋肉・ホルモンのすみずみへ届いていく証拠です。

そしてこの小さな“変化”が、自分を信じ直すきっかけにもなるのです。




■ “好き”があることで、自分を守れるようになる



「好き」という感情があると、人は自分を守りやすくなります。


  • 疲れたとき、無理をしすぎない

  • 嫌なことに対して、距離を取る判断ができる

  • 心がざわついたとき、落ち着ける場所に戻る選択ができる



これは、「自分が何を好きかを知っている」からこそできるセルフケア

好きという感情は、ただ楽しいものではなく、

“自分を自分のままで保つための防波堤”のような役割を果たしているのです。




■ 好きは、人生を立て直す「小さな再起動ボタン」



人生が停滞しているように感じるとき、

モヤモヤが続いて抜け出せないとき、

すべてがめんどうになってしまったとき──


そんなとき、必要なのは「目標」でも「努力」でもなく、

ほんの少しの「好き」かもしれません


  • 朝、お気に入りのマグカップを選ぶ

  • 夜、好きな匂いの柔軟剤に包まれて眠る

  • 休日、好きな音楽をかけて床を掃除する


それだけでも、体と心は「ちょっと動いてみようかな」というモードに変わります。

“好き”は、人生を前に押す力ではなく、静かに「もう一度始める」ための再起動ボタンのようなもの。


“好き”を見つけることは、体と仲直りすること。

感情を感じられる余裕を取り戻し、体の声に耳を傾け、

「私はこんなふうに動いていたいんだ」と思い出す時間。


あなたが何かを“好き”と思えたとき、

それは体が「いま、ちょっと整ったよ」と知らせてくれているサインかもしれません。


今すぐ大きなことを変えなくてもいい。

まずは、“好き”のある方向へ、ほんの一歩だけでも。

それが、体と心が同じ方向を向きはじめる、やさしいスタートになります。





まとめ|「好き」は、心と体を整える



── それは、自分の内側にある小さなスイッチ。



「好き」という気持ちは、特別なものではありません。

けれど、呼吸を整え、筋肉をゆるめ、

ホルモンをめぐらせ、免疫を守り、

神経のバランスをととのえる──

そんな力を、静かに持っています。


それはまるで、体の奥から「もう大丈夫だよ」と

そっと伝えてくれる、やわらかなメッセージ。


大きな夢や、壮大な目標がなくてもいい。

ただ、あなたが「いいな」と思えるものが、ひとつあるだけでいい。

“好き”という気持ちは、あなたを今日も、生きる方向へと連れていってくれます。

コメント


京都ほぐし堂公式コンテンツ

京都ほぐし堂ロゴ
  • Instagram

©2010 ALL RIGHTS RESERVED BY IRC CO.,LTD.

bottom of page