「寝相は心と体のメッセージ」
- 京都ほぐし堂WEB
- 10月6日
- 読了時間: 20分
更新日:7 日前

眠る姿に、心と体の“声”が出てしまう
夜、電気を消して、ふとんに入る。
その瞬間から、私たちは「無意識の姿勢」で眠りに落ちていきます。
朝起きたとき、いつの間にか布団を蹴っていたり、枕が遠くへ行っていたり、体が妙にねじれていたり──「あれ?私こんな寝相だった?」と驚いた経験、ありませんか?
あるいは、いつも左を下にして寝てしまう、気づくと丸まって寝ている、うつ伏せの方が安心する。そんなふうに、決まった“寝姿”を持っている人も多いはずです。
でも実はその寝相、ただの癖ではないかもしれません。
寝相とは、意識が完全にオフになったときに、心と体が自然に選ぶ姿勢です。つまり、「あなたがその夜、どう感じていたのか」「体にどんなこわばりがあるのか」が、何気ない寝相ににじみ出ているのです。
たとえば、緊張や不安が強い日は、体を丸めて寝てしまう。
逆に、安心している日は仰向けで大の字になって眠れる。
そんなふうに、**寝相は“夜の感情のかたち”**だと言っても過言ではありません。
また、寝姿勢は体にも影響します。
毎晩同じ方向に丸まっていたら、筋肉の偏りが生まれ、骨盤や背骨がゆがむことも。
腰痛、肩こり、頭痛──それらの原因が、「日中の姿勢」だけでなく、「寝ているときのクセ」にある場合もあるのです。
このコラムでは、「寝相」という身近でありながら奥深いテーマを、心理と身体、そして癒しの視点から掘り下げていきます。
・なぜ寝相に心の状態が表れるのか?
・どんな寝相にどんな性格や不調が出やすいのか?
・ストレスが寝姿勢にどう影響するのか?
・寝相を整えるためにできるケアとは?
そんな問いを、静かな夜に寄り添うような視点で、ゆっくり読み解いていきます。
眠っているあいだのあなたは、言葉こそ発しないけれど、しっかりと“自分の声”を発信しているのかもしれません。
その声にそっと耳をすませることで、日々のリズムを整えるヒントが見つかるはずです。
目次
第1章|なぜ寝相に“心”が出るのか?
日中、私たちはさまざまな場面で「こう見られたい」「こう振る舞わなくちゃ」と無意識に自分を整えながら生きています。
姿勢を正す。笑顔をつくる。背中を丸めず、しっかり歩く。
そうした「人としての形」は、社会の中で自然と身についたものかもしれません。
でも、夜──眠りに落ちる瞬間。
誰の目もなく、意識もなくなる時間帯になると、身体はその“演出”を解き放ちます。
そして、無意識のままに選ぶのが、**その日の心と体にとって「いちばん安心できる姿勢」**なのです。
これが、寝相が“心の鏡”だといわれる理由です。
「姿勢」は感情とつながっている
感情は、目に見えないものです。
けれど、体はその感情に反応して、自然に姿勢を変えていることがあります。
たとえば、不安や緊張を感じたとき、人は肩をすくめたり、お腹を守るように丸まったりします。
怒っているときは背筋がピンと張り、胸を張るような姿勢になります。
悲しいときは頭が下がり、肩が前に入って背中が丸くなる。
そう、感情は筋肉の使い方や体のかたちに現れるのです。
これは、夜になって眠るときも同じです。
むしろ、意識的にコントロールできないぶん、寝相にはその人の“今の感情”がストレートに表れるとも言えます。
自律神経の状態が寝相に現れる
もう少し体のしくみから見てみましょう。
人の体は、「交感神経(=緊張・活動モード)」と「副交感神経(=休息・リラックスモード)」がバランスをとりながら働いています。
夜になって、眠りにつくときには副交感神経が優位になり、体の緊張がほどけていくのが自然な流れ。
ところが、ストレスが強かったり、気持ちの切り替えがうまくいかないと、交感神経が優位なまま眠ってしまうことがあります。
すると、体はゆるまず、防御的な姿勢や緊張を含んだ寝相をとりやすくなります。
胎児のように丸まる
うつ伏せで覆い隠すように眠る
無意識に何度も寝返りを打つ
これらはすべて、体が「まだ安心できていない」と伝えているサインとも言えるのです。
逆に、気持ちが落ち着いているときには、
仰向けで手足をゆったり広げる
自然に呼吸が深くなる
寝返りが少ない
といった“開いた姿勢”で眠れるようになります。これは、副交感神経がしっかり働いている証拠です。
「安心できる寝相」は、人によって違う
ただし、リラックスできる姿勢は人それぞれ。
仰向けで眠ると安心できる人もいれば、横向きじゃないと不安な人もいます。
「開いた寝相=正しい」「丸まっている=ダメ」と一概には言えません。
大切なのは、その姿勢を“無意識に選んでいる理由”に気づくことです。
丸まって眠る日は、心がちょっと縮こまっているかも?
うつ伏せが増えたのは、ストレスが溜まっているサインかも?
寝返りが多い夜は、何か落ち着かない気持ちがあるのかも?
こんなふうに、自分の寝相を「体と心の声」として受け止めてみると、日々のコンディションに気づきやすくなります。
眠る姿勢は、“その日一日の感情の総まとめ”
寝相は、あなたの感情がゆっくりと静まっていくプロセスのなかで、
「今夜はこの姿勢が安心」と、体が選んだ無意識の形です。
それは、昼間に誰かに気を遣ったことや、がんばったこと、ちょっと不安だった出来事──
そういったものすべてを包みこんだ“心のあとかたち”なのかもしれません。
寝相を知ることは、自分の感情の揺れや身体のコンディションを、やさしく見つめ直すこと。
言葉にしなくても、体はずっと、あなたの今を表現し続けているのです。
次章では、いよいよ「寝相のタイプごとに見えてくる“心と体の関係”」を掘り下げていきます。あなたの寝相には、どんなサインが隠れているでしょうか?
第2章|寝相別:性格とストレス傾向、身体への影響
「こんな姿勢で寝てたよ」と誰かに言われて、ハッとしたことはありませんか?
寝相とは、意識が眠りに沈んだあとに自然と表れる“無防備な姿勢”。
だからこそ、そこには心と体の深層にある情報がにじみ出ているとも言われます。
この章では、代表的な寝相パターンを取り上げながら、
それぞれの姿勢に表れやすい心理傾向と身体の不調リスクを読み解いていきます。
「まるで自分のことみたい…」と感じたら、それは体と心が送る小さなサインかもしれません。
1. 仰向けタイプ|安心・開放・余裕の表れ
こんな寝相の人
→ 天井を向いて寝る/手足をゆったり広げる/いわゆる「大の字」型
心の傾向
仰向けでゆったり寝られる人は、安心感や自己受容が高い状態。
自分の空間や周囲に対して「警戒」より「信頼」が勝っているときに出やすい寝相です。
心が安定していたり、達成感を感じていた夜にはこの姿勢になりやすい傾向があります。
また、仰向けで眠る人は「人に頼るのが上手」「マイペース」「自己調整力が高い」といった特徴を持つことも。
体への影響
・背骨が自然に伸びやすく、体への負担は比較的少なめ
・ただし、腰が反りすぎている人は腰痛になりやすい
・いびきをかきやすい/無呼吸症候群がある人には不向きなことも
・舌根沈下による呼吸の浅さに注意が必要
→ 呼吸の深さを保つには、枕の高さと寝具の硬さが鍵になります。
2. 胎児型|不安・守り・繊細さの表れ
こんな寝相の人
→ 体を丸めて寝る/膝を胸に近づけている/腕でお腹をかかえるような姿勢
心の傾向
この寝相は、心のどこかに「守りたい自分」があるときに出やすいとされています。
人間が安心感を得るためにとる「最も原始的な姿勢=胎児の姿」だからです。
日中の緊張やストレス、人間関係の疲れなどを“丸まることで包み込もう”としているのかもしれません。
また、普段はしっかり者でも、精神的な疲れが溜まったときにだけこの姿勢になる人も。
「頑張り屋さんがふと見せる防御反応」ともいえるでしょう。
体への影響
・肩や背中が丸まりやすく、首・肩こりの原因に
・胸郭が縮こまり、呼吸が浅くなる → 自律神経の乱れにつながることも
・腰や股関節に負担がかかり、起床時のこわばりを感じやすい
→ 疲れている日ほど丸まりたくなる。だからこそ、緊張をほぐす夜のケアが効果的です。
3. 横向き寝|気遣い・調和・疲労のあらわれ
こんな寝相の人
→ 左右どちらかを下にして眠る/足を少し曲げている姿勢が多い
心の傾向
横向きで寝る人は、人とのバランスを大事にするタイプに多いと言われています。
完全に防御するわけでもなく、かといって無防備に仰向けにもならない──
どこか「ちょうどいい距離感」を保ちたいという心理のあらわれです。
また、胃の調子が悪い・呼吸がしづらいなど、身体的な違和感をかばうために横向きになることも。
疲れた日や気力が落ちているとき、無意識にこの姿勢を選びやすくなります。
体への影響
・左右のどちらかに重心がかかり、骨盤や肩の位置ズレにつながる
・頬や顔のむくみ・たるみの原因になることも
・腕や脚が圧迫されやすく、しびれ・だるさの原因になる場合も
→ 同じ向きばかりで眠らないように、寝具の配置や姿勢の見直しを。
4. うつ伏せ寝|緊張・がんばりすぎ・自己防衛
こんな寝相の人
→ 顔を横に向けてうつ伏せになる/腕や足で枕や布団を押さえ込むようにして眠る
心の傾向
うつ伏せ寝は、心が緊張状態にあるとき、あるいは強い刺激から逃れたいときに出やすい寝相です。
人は背中に「無防備さ」を感じる生き物。うつ伏せになることで、心理的に“守られている”ような安心感を得ようとするのです。
また、責任感が強い人や完璧主義傾向のある人に多いとも言われ、
「自分でなんとかしなきゃ」という思いが体に出るとも考えられます。
体への影響
・首をねじったまま寝るので、首・肩・頭痛の原因に
・胸部や腹部が圧迫され、呼吸が浅くなる/消化不良に
・腰が反ってしまい、慢性腰痛の引き金になることも
→ 心理的には落ち着くが、体にはやや負担の大きい姿勢です。
5. 寝返りが多い人|ストレス反応・環境への過敏さ
こんな寝相の人
→ 布団が毎朝ぐちゃぐちゃ/寝具からはみ出ている/寝始めと起きたときの姿勢がまったく違う
心の傾向
寝返りが多い人は、環境に対して敏感だったり、精神的な緊張が抜けていないサインかもしれません。
考えごとをしたまま眠りについたり、寝室の音・光・温度が気になりやすい人に多く見られます。
また、体のどこかに「違和感」があると、無意識に姿勢を変えながらバランスをとろうとするため、寝返りが頻繁になります。
体への影響
・眠りが浅くなり、疲労感が抜けにくい
・筋肉が休まらず、寝ているのに“疲れる”状態に
・歯ぎしりや食いしばり、寝汗などと併発していることも
→ 寝具・温度・生活リズムの見直しを通して、安心して動かなくてすむ環境づくりを。
自分の寝相は、いつも同じとは限りません。
寝相は「あなたの性格そのもの」というより、その日その夜の“状態”があらわれる姿です。
つまり、寝相は変わるもの。変わっていいし、変わることで今の自分に気づく手がかりになるのです。
丸まる日は「守りたい日」
仰向けの日は「解放された日」
寝返りが多い夜は「少し疲れているかも」
そんなふうに、寝相=心と体の声と捉えて、優しく向き合ってみましょう。
第3章|なぜストレスが強いと寝相が乱れるのか?
夜の寝相が乱れているとき、それは体が無意識のうちに何かを訴えているサインかもしれません。
「寝返りが多すぎてぐっすり眠れない」
「朝起きるとシーツがぐちゃぐちゃ」
「肩がこって、体がねじれていた気がする」
そんなとき、単に“寝相が悪い”のではなく、心や体に溜まったストレスが眠りの姿勢に影響している可能性があります。
この章では、ストレスが睡眠中の姿勢=寝相にどう作用するのか、そしてその背景にある身体のしくみを見ていきましょう。
ストレスは「眠る姿勢」に表れる
私たちは起きている間、意識的に姿勢を調整しています。
背筋を伸ばす、無理にでも笑顔をつくる、表情やしぐさを整える。
でも、眠っている間はそのコントロールがすべてオフになります。
そのときに現れる寝相は、日中にため込んだ心身の緊張や違和感がダイレクトに表出する場面なのです。
たとえば、
心配ごとが多い日は、体を丸めたまま硬直している
仕事や人間関係で緊張が続いた日は、寝返りが多く落ち着かない
うつ伏せで「守られるような姿勢」をとってしまう
など、日中のストレスは、無意識の“眠る姿”に形を変えて現れます。
自律神経と寝相の深い関係
ここで、自律神経の仕組みに目を向けてみましょう。
自律神経には、
交感神経(緊張・活動モード)
副交感神経(リラックス・回復モード)
という2つの働きがあり、このバランスで私たちの体内は調整されています。
本来、夜になると副交感神経が優位になり、心拍が落ち着き、体温も少し下がり、体が「眠る準備」を整えます。
しかし──
ストレスによって交感神経が強く働きすぎると、眠るタイミングでも体が「戦闘モード」のままになってしまいます。
この状態では、
呼吸が浅い
筋肉がゆるまない
心拍が高いまま
手足が冷たい
といった変化が起こります。
このような“神経が張った状態”では、体が完全に脱力できないため、落ち着いて眠ることが難しくなり、結果として寝相が乱れるのです。
ストレスと「寝返りの多さ」は比例する?
寝返りは本来、血流を促したり、身体の圧を分散するために必要な動きです。
健康な人でも一晩に20〜30回は打つと言われています。
ただし──
ストレス状態では、この寝返りが“多すぎる・激しくなる”傾向が出てきます。
背中や腰がこわばっている
手足の末端が冷えている
胃腸が張っている
無意識に緊張を解こうとしている
こうした要因が積み重なると、眠っている間も体がリラックスできず、「違和感を解消しよう」として何度も姿勢を変えることに。
これが結果として、
眠りが浅い
熟睡感がない
起きたときにぐったりしている
という「回復できない睡眠」につながってしまうのです。
筋肉の“こわばり”が寝相を乱す
心のストレスだけでなく、体の緊張=筋肉のこわばりも、寝相に強く影響を与えます。
たとえば:
デスクワークで巻き肩・猫背の姿勢が固定 → 背中を丸めて寝てしまう
首・肩まわりの緊張 → うつ伏せの姿勢でしか落ち着かない
骨盤周りの固さ → 無意識に脚を組む・ひねるような寝相に
筋肉が縮こまったまま寝ようとすると、体は「これでは眠れない」と感じて何度も姿勢を変えます。
結果として、本人の意識とは関係なく、寝相が不安定になってしまうのです。
心と体の“ストレスループ”が寝姿勢を乱す
ここで注意したいのが、「心」と「体」が互いに影響し合う“ストレスループ”です。
精神的なストレス → 筋肉がこわばる
筋肉がこわばる → 副交感神経が働きにくくなる
自律神経が乱れる → 睡眠が浅くなる
浅い睡眠 → 体が回復せず、翌日のストレス耐性が下がる
さらにストレスが溜まる…
このように、寝相の乱れは「ただ寝苦しいだけ」ではなく、心身の回復を妨げる“ループの入口”になる可能性もあるのです。
寝相の乱れに気づいたら──対策の第一歩
寝相が乱れていると感じたら、まずできることは、
「自分が安心して寝られる環境をつくること」です。
たとえば:
寝る前にスマホやSNSを見ない
照明を暗めにし、静かな音を流す
温かい飲み物や足湯で体温をゆるめる
やさしい圧で体をゆるめるリラクゼーションを受ける
1分間の深呼吸で副交感神経を切り替える練習をする
これらはどれも、交感神経優位の状態を、やさしく副交感神経へと戻していく方法です。
つまり、「寝相が乱れる前の予防策」とも言えます。
寝相は、眠ってからの“第二の会話”とも言えるでしょう。
日中にため込んだストレスは、眠っているあいだに姿勢として表れる。
寝相は、その日の「疲れのかたち」であり、「心の動きの残像」でもあります。
無意識でとる寝相には、ウソがありません。
それはまるで、心と体からの“第二の会話”──
「もっとゆるんでいいよ」「守られたい」「ちょっと疲れたね」そんな声が、形を変えて浮かび上がっているのです。
寝相の乱れに気づいたとき、まずはそれを責めるのではなく、
「体と心が今、何を訴えているのか」をそっと感じてみること。
そこから、回復のリズムが少しずつ整いはじめます。
第4章|寝ている姿勢が、体をどう歪めるか
眠っているあいだ、私たちの身体は6時間、8時間と、ひとつの姿勢に預けられ続けています。
意識のない時間だからこそ、その「寝ているかたち」が、知らず知らずのうちに身体に影響を及ぼすことがあります。
日中の姿勢が「動きながら体を使う時間」ならば、
寝ている姿勢は「無意識に体を固定する時間」です。
その固定が日々繰り返されれば、肩、腰、顔、内臓まで──小さなズレが積み重なっていきます。
たとえば、長時間スマホを見る姿勢が猫背や巻き肩を生むように、
寝姿勢もまた、癖のある形で繰り返されることで、体に偏りが生まれるのです。
肩と背中の左右差:仰向けと横向きの違い
仰向けで眠る人は、背中全体がベッドに均等に接しているため、背骨や肩まわりのバランスは比較的保たれやすいとされます。
しかし、腰の反りが強い人や枕が高すぎる場合、首や腰椎にかかる負担が一箇所に集中してしまい、逆に痛みの原因となることも。
一方、横向きで寝る人は、左右どちらかの肩に常に体重がかかります。
とくに毎晩同じ側を下にしていると、肩甲骨の高さに微妙なズレが生じ、片側だけ肩が張ったり、腕がしびれたりすることがあります。
同じように眠っているつもりでも、
「仰向けで均等に圧がかかる体」なのか、
「片側に圧が集中しやすい横向きの癖」があるのかで、背中の疲れ方や骨格のバランスはまったく変わってきます。
骨盤と腰への影響:脚の置き方が鍵を握る
横向きやうつ伏せで眠るとき、多くの人はどちらかの脚を曲げて寝ています。
この「片脚を引き上げた姿勢」は、股関節や骨盤のねじれを生みやすく、腰まわりの不調の原因になります。
特に、うつ伏せ寝で脚をひねる癖がある人は、
骨盤が“ひと晩中片側に引っ張られている”ような状態になってしまいます。
そのまま長期間続けば、日中の立ち姿勢や歩き方にまで影響が出ることも。
また、反り腰傾向の人が仰向けで眠ると、腰の後ろに隙間ができて緊張が抜けづらくなります。
このタイプの人は、膝の下にクッションを入れるだけで腰のアーチがやわらぎ、痛みが軽減するケースもあります。
姿勢を変えずに6時間寝続けるということは、
その負担を、6時間かけて体が受け止め続けているということなのです。
顔と頭まわり:左右差とむくみの原因に
仰向けで眠っている場合、顔に重力が均等にかかるため、顔のむくみやたるみのリスクは比較的少ないとされています。
しかし、横向きやうつ伏せで眠ると、顔の片側に長時間圧がかかります。
これが続くと、頬やまぶたのむくみ、フェイスラインの左右差、肌荒れの原因にもつながります。
とくに枕に強く押しつけるような寝方をしている人は、片側だけ皮膚が慢性的に引っ張られる状態になります。
朝の“顔の違和感”が気になる人は、寝ているときの顔の向きに目を向けてみると、思わぬヒントが隠れているかもしれません。
内臓と呼吸:姿勢が深呼吸を妨げることも
うつ伏せ寝は、心理的には安心感を得やすい姿勢です。
でも、腹部と胸部が常に圧迫された状態になっているため、横隔膜の動きが制限され、深い呼吸が難しくなります。
呼吸が浅い状態が続くと、副交感神経のスイッチが入りづらくなり、睡眠の質が下がるだけでなく、
消化や代謝にもじわじわと影響を与えることがあります。
また、右向きと左向きで寝ることで内臓への影響も変わります。
たとえば、胃が心臓より上にくる“左向き”の姿勢は、胃もたれを引き起こしやすい傾向がある一方で、
“右向き”は逆流性食道炎を避ける寝方として医療の現場で推奨されることもあります。
呼吸と内臓の働きは、自律神経と深くつながっているため、寝る姿勢の影響は翌日のコンディションに直結します。
次章では、こうした姿勢の傾向に現れる“感情”や“無意識のこころの動き”について、さらに掘り下げていきます。
「身体に現れる心のサイン」を、今度は心理面から読み解いていきましょう。
第5章|寝相でわかる、夜の感情と身体のサイン
眠るとき、私たちは体だけでなく、感情も横たえています。
日中どれだけ平静を装っていても、眠りにつく瞬間の姿勢には、どこか本音のかたちがにじみます。
言葉にできなかった不安、表に出せなかった疲れ、それらが体のポジションとなって現れていることは、決して珍しくありません。
仰向けで手足を伸ばして眠る日は、自信や余裕があるときかもしれません。
逆に、体を丸めるようにして眠る日は、心が守られたいと願っているのかもしれません。
うつ伏せで眠る人は、背中を誰にも見せたくないという感覚を抱えていることもあります。
横向きで眠る人は、誰かとの距離感を調整したい、外の刺激を少しだけ遮って眠りたいというバランス感覚のあらわれかもしれません。
どの寝相にも“悪い”“良い”はなく、ただその人の「その日」があらわれているだけ。
寝ているときの姿勢は、その日のストレス量や安心感、外から受けた刺激、自分の体調すべてを含んだ“夜の答え合わせ”のようなものです。
日々の寝相に注目してみると、自分の変化に早く気づけるようになります。
たとえば、「最近、仰向けで寝られなくなった」「いつもより寝返りが増えている」といったささいな変化も、
それは日中に処理しきれなかった緊張や違和感が、体に残っている証かもしれません。
寝相は“無意識の選択”であるからこそ、自分で意図的にコントロールすることは難しいものです。
それでも、寝相の傾向や変化に気づくことは、体や心のサインを読み取る第一歩になります。
繰り返す寝相のパターンには、日々の「生き方の癖」も重なってくることがあります。
完璧を求める人は、姿勢まで緊張しがちで、うつ伏せや仰向けでもぎゅっと力が入っていたり。
繊細で人に気を遣いがちな人は、横向きに少しだけ体を縮こめた姿勢に落ち着いたりします。
そうした癖を「直す」ことが目的ではなく、「そうだったんだな」と受け止めてあげることが、自分をいたわる一歩になるのです。
姿勢を矯正するのではなく、心と体が“より自由に姿勢を選べる状態”に戻していく。
それが本来の「整える」ということかもしれません。
眠る前に、今日の自分の寝相がどうだったか、明日の自分に何か教えてくれていないか──
ほんの少し、振り返ってみるだけでも、静かなリセットが始まります。
まとめ|今日の寝相は、明日のあなたへのヒント
眠りとは、いちばん素直な「わたし」が出てくる時間かもしれません。
言葉にしなかった想いも、見て見ぬふりをしていた疲れも、
眠る姿勢というかたちになって、布団の中にそっと現れることがあります。
まっすぐ仰向けに眠れる夜は、どこか心がひらいているのかもしれない。
からだを丸めて眠った日は、ちょっとだけ守られたかったのかもしれない。
うつ伏せに沈むように眠った夜は、「全部ひとりで大丈夫」と言いたい自分を、無意識にかばっていたのかもしれない。
そして何度も寝返りを打つような夜は、心も体も「定位置」を見つけあぐねていたのかもしれません。
どの寝相が良い、悪いではなく、
どの寝相にも理由がある。
しかもその理由は、昨日と今日とで変わって当然で、
きっとまた明日は、少し違う寝相になるのかもしれません。
たとえば、同じように横向きで寝ている人でも──
右を下にする人と、左を下にする人では、内臓への負担が変わると言われています。
横向きでも、足の角度や腕の位置によって、骨盤の傾き方がまるで違ってきます。
そして何より、「今日はどちらを下にする?」というその選択に、きっと“その日のあなた”が滲んでいる。
もしあなたが最近、寝つきが悪いと感じていたら、
それは体がまだ“安心のかたち”を探しているだけかもしれません。
よく眠れた日があったなら、それは無意識に「ちょうどいい姿勢」に落ち着けた証拠かもしれません。
寝相は、矯正すべき癖ではなく、
今のあなたが、いちばん落ち着く場所を探して選んだ姿です。
「いい姿勢で寝なきゃ」とがんばるのではなく、
「どうして今夜はこの姿勢だったんだろう?」と、そっと問いかけてみる。
それだけで、自分の心や体とつながり直す静かな時間が生まれます。
眠りは、ただの回復ではありません。
その日の思考、感情、身体感覚すべてを、いったん“ゼロに戻す”ための場所。
そして寝相は、そのゼロのかたち。
うまくゼロになれない日があってもいい。
ちょっといびつなゼロだった夜も、
身体が、心が、じぶんでじぶんを整えようとしてくれた結果なのだから。
寝相は誰かに見せるものではないけれど、
きっと、あなたがいちばん知っている、あなたの「今」のあらわれ。
今夜も、気がつけば何かの姿勢で眠っているそのとき、
今日一日を頑張ったこと、ちゃんと体はわかっているのだと思います。
眠る姿勢は、夜の感情のかたち。
そこから目覚めるあなたは、また少しだけ、やわらかくなっているかもしれません。
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